屋根の上のバイオリン弾き

ジャンル: ミュージカル
ジョセフ・スタイン(原作/ショーレム・アレイ ヘム『牛乳屋テヴィエ』)
演出
ジェリー・ボックジェリー / シェルダン・
ハーニック/ジェローム・ロビンス
日本版振り付け:真島茂樹
日本版演出:寺﨑秀臣
音楽:宮川彬良
キャスト
市村正親
鳳蘭
実咲凛音
神田沙也加
唯月
ふうか
入野自由
広瀬友祐
神田恭兵
今井
清隆/青山達三 ほか
日程
2017年12月5日(火)~12月29日(金)
劇場
日生劇場
舞台は帝政ロシア時代の、片田舎のアナテフカという村。そのまた片隅に、ユダヤ人の集落があり、そこで酪農業を営むテヴィエが主人公。
テヴィエには、25年連れ添って、頭が上がらない妻・ゴールデと、その間に授かった5人の娘がいる。
娘たちを可愛がり、貧しくも幸せに暮らしているが・・・・。
この演劇を見た人
青柳 暁子

おすすめ度
脚本のストーリー性 5
役者の表現力 4
演出の巧さ 5
演出の奇抜さ 3
舞台装置の芸術性 4
客席と舞台の一体感 3
劇場設備の充実度 4
敷居の高さ 4
見た人の感想

日本で50年間愛されている、ミュージカル作品!

今公演タイトルが、「日本初演50周年記念公演」。
なのに、わたくし今回が初観劇でございまして、前知識もほとんどなく観劇いたしました。
実際観てみると、ロングランなだけあって、前半は笑えて、後半は涙する、とても素晴らしいストーリー。時代に飲み込まれそうになる、一艘の小舟のような家族。でも、とっても健気に、いつも前を向いて生きていこうとする姿が、微笑ましくもあり、哀しくもあり。
ユダヤ人迫害というバックボーンはあるものの、どの時代でも、世界のどこでも、きっとこんな家族がほかにもいるし、もしかしたら近くにいるかもしれない、と思わせられる。というか、芝居が終わるころには、もう家族の一員のような気にさせられるほど、この一家に感情移入しちゃってました。笑
市村正親さんが、いちいち客席に向かってボヤいたりしてたからかしら。とにかく、後半は涙が止まりませんでした。(自分でもびっくりですが・・・)

タイトルの「屋根の上のヴァイオリン弾き」とは。テヴィエのセリフによりますと(公演プログラムに書いてあった)、アナテフカのユダヤ人はみんな、屋根の上のヴァイオリン弾きみたいなもの、と言うところがあります。つまり、落ちて首を折らないように気をつけながら、愉快で素朴な調べをかき鳴らそうとするのが、ユダヤ人だから、だと。それが「しきたり」なのだと。

そう言うと、「♪しきたりー、しきたりっ!」という、「伝統の歌」になります。最初の歌であるこのシーンは、わらわらと村の人々も登場してきて、父、母、息子、娘、の4つのパートに分かれて、その民族におけるそれぞれの役割を、歌と踊りで、分かりやすく説明してくれる。とてもエネルギッシュで、テンションが上がる元気が出る曲で、幕開きの観客の心を奪うのに十分すぎるパートでした。

なお、この踊りにおける腕を高く掲げるこのポーズは、ユダヤの伝統的な踊りから来ているのだとか。そういったユダヤの伝統的な習慣や儀式が、この芝居には、そこかしこに登場します。このような丁寧な描写があることによって、いかに伝統を守り続けることが大変か、とか、その伝統を破ってまでも家族の幸せを願っちゃうところとかが、いちいちグッときます。やっぱりいいんだろうな、台本や演出が。

この50年の歴史の中で、市村さんテヴィエは4代目。初代は森繫久彌さん。森繫さん時代に上條恒彦さんが7回代役をしました。その次は、西田敏行さん。なるほどー、圧倒的存在感がありながら愛嬌がある、っていう顔ぶれ。テヴィエって、しょっちゅう客席に語りかけてくるから、ついつい引き込まれるんですよ。わたくしも、ついその術中にはまった一人。ホホホ

テヴィエが恐れる、鳳蘭さん扮する肝っ玉母ちゃんのゴールデ。いつも華やかでゴージャスな存在感の鳳さんが、今回は貧しい庶民なわけですが、これまた、とても市村さんを引き立てている。5人の娘たちを大きな愛で包んでる。強いけど優しくて、あったかい。初演は越路吹雪さんですが、このポジションの女優さんは、この芝居の要で、テヴィエ役とのバランスがものすごく重要なんだな、って思いました。テヴィエ役が自由奔放にみせて、実は、首の縄の端っこは、しっかり握ってますよー。的な。

娘たちも豪華なんですよ。長女・ツァイテルは、元宝塚娘役トップの実咲凛音さん。次女・ホーデルは、アナの神田沙也加さん。三女・チャヴァは、ピーターパンの唯月ふうかさん。
テヴィエは、娘たちには、お金持ちと結婚して貧しい生活から抜け出して、楽に暮らしてほしいと願っている。なのに、娘たちは次々と自由恋愛しちゃう。家族から、この村から、離れてっちゃう。伝統を重んじるテヴィエにとって、ツライことの連続となる。長女のときは、まだ微笑ましく観ていられて、次女もまあ、この流れからいったらそうなるね・・・って思ってたところ、三女、お前もかいっ!ってなる。でも結局、娘たちを愛してるから応援しちゃう。娘たちも「パパ、ありがとう!」ってなる。と、こちら、あったかいものがこみ上げてくる。「よかったねー」だけじゃないんです。もう、これが今生の別れかもしれないくらいの離れ離れになる選択を迫られてるから、その決断がツライ。でも、お互いこんなに思いやり合ってる家族の絆が・・・・書いてるだけで泣きそう。笑

時代が暗い影を落としているから、家族との離れ離れもツライ上に、最終的に故郷も追われてしまいます。でも、テヴィエは受け入れ、そして前を向いて歩いていく。新天地に向けて旅立つところで、音楽とともに幕。

明るい終わり方にしなかったのは、オリジナル演出のジェローム・ロビンスの判断だったそう。流れにゆだねて、観客に伝えることを優先させよう。悲しいものは、悲しいままで、と。これが結果、大ヒット、ロングランとなった要因だったそうです。だからか、カーテンコールで、再び家族が一つの空間で、笑顔で登場したときには、思わずまた涙してしまいましたよ。まんまと。

ミュージカル初心者のわたくし、ところどころ、曲が長い、早く物語の進行をしてよ~と感じたところもありました。あと、トイレの列がやたら長かった。間に合うのかな、これ、って心配していたら、休憩終了間際、別の場所に案内されました。
っていうのを除けば、大満足な感動巨編、大作ミュージカルでした! ミュージカルもいいものですねっ!

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