メンター 羽子田 洋子

羽子田 洋子

女優では、蜷川幸雄氏の演出作品に最多出場を誇る。
藤原竜也氏の初演劇オーディションで相手役を務めた経験もある。

俳優として

藤原竜也さんの相手役として

藤原竜也さんが初めて蜷川さんの舞台のオーディションを受けたとき、実は、私が相手役を担当したんです。最終オーディションで、彼は体当たりの演技をしました。初めてやった演技なのに、ダントツに素晴らしかった。
その時の作品は「身毒丸」で、母と子の禁断の愛のシーンなんですが、彼は私を押し倒す役。私が起き上がっても、また押し倒すので、とんでもない度胸の持ち主だなと思いました。満場一致で藤原竜也さんが選ばれました。

蜷川氏との出会い

仕事をしながら自分に向いているものは何かと探し始めて、とりあえず演劇をやってみようと思ったのがきっかけです。最初は多摩芸術学園や劇団で勉強していました。
そんな時、蜷川さんのインタビューを見て、すごくしっくりくるものがあったんです。
当時の蜷川スタジオは、二期の受付を始めたばかりだったので、すぐ受験しました。

ところが、蜷川スタジオの人気は凄まじく、早く申し込んだ私の受験番号は2000番台。「これだけの人数だったら、絶対に受からない・・・」と思っていたのに、なんと合格。でも本当に大変なのは、それからでした。

一般的な劇団では稽古をするとき、発声練習や体操をしますが、蜷川スタジオでは行いません。代わりに「作品を見せろ」と、エチュードという10分くらいの小さな作品を作って見せていました。演劇作品の練習問題をやるようなものですね。
作品を見せない人はクビ、作品づくりの期間が長すぎてもクビ、作品の内容がダメでもクビというシビアさ。しかも、エチュードはどんどん作っていかなきゃダメでした。
エチュードは舞台に立つようになってもやり続けるので、ものすごく大変です。正直な話、3年くらいは生きた心地がしなかったです。

印象に残った舞台は何か

白石加代子さん主演のトロイアの女ですね。一気にセリフの量をもらえるようになった舞台です。私の中で、初めて舞台で自由にしゃべったり演じることができた思い出があります。
舞台はなんて自由なんだろうと実感した瞬間でした。

俳優で落ち込んだり、辞めようと思ったこと

私は「悩み」というのは、「なんともならないことを何とかしようと考えるから起きるもの」だと思っています。今まで「なんとかしようとして、なんとかなったことがない」ので(笑)、悩むのをやめて、先にいくことばかり考えていました。
でも、舞台に立つときは毎回「これで俳優は終わりにしよう」と思ってました。
ところが蜷川さんの舞台が年間で12本超えたとき、「今回はダメだったけど、次はこれをやろう」という気持ちに変わりました。
演劇というのは一つの作品を作り上げて完結ではなく、いくつもの作品と経て、常に作り続けていく面白さがあることに気づいたのです。

俳優の面白さや魅力とは

私が思う面白さや魅力は「自由」です。
舞台の上はフィクションの世界。何をやってもいいんです。もちろん設定はありますが、設定さえ守れば、誰の気兼ね無く、思った通りに動いて、セリフを言っていいんです。例えばジュリエットが男勝りだったり、オフィーリアがじゃじゃ馬だったり、イメージと全然違っていいんです。役を型どおりにやったら、誰がやっても同じになります。

役作りの方法について

登場人物は自分とは全く違う人です。セリフも、「何故こんなことを言うのだろう」と自分の考え方と全然違うところがあります。「私だったらこう言うのに。この人はこう言った。その違いは何故?」と掘り下げていきます。
そうやって色んな「何故?」を解き明かしていく作業が役作りかなと思います。
正解はないので、「この人はこういうことがあったのかもしれない、こういう風に感じたのかもしれない」と自由に登場人物を想像していくのが面白いです。

シナリオクラブについて

会員さんに求めるもの。

みなさん、歩んできた人生が違います。うまい下手を判断したり、教えたりするわけではなく、その方が本来持っている良さや、ご本人も気づいていない本質を引き出すのが使命だと思っています。
台本が自身の人生と重なることで、普段封じ込めている感情が出てくるときもあります。
そのきっかけはご自身にもわからない事が多いので、私は色々なアプローチを行います。

日常生活で心を解放して本質を出すと大変なことになるので、みんなそうならないように、心の中で蓋をして折り合いをつけているのだと思います。でも見えてないだけで無くなったわけではない。人間の心の中は、憎しみも悲しみも果てしなくあるんです。
でもそのもとになる感情は「愛」なんですね。
「愛」があるから「憎しみ」も「悲しみ」も産まれるんです。

会員さんと読み合わせていると「もっと泣きたいんじゃないか」「もっと怒りたいんじゃないか」「もっと必死になりたいんじゃないか」と感じます。そしてある時、心の蓋がパカっと開いて、何かがドドドっと出てくる。
会員さんが、心を解放し、本質を出して、自由になった瞬間が来たなと感じると、自分のことのように嬉しいです。
役に縛られて心を閉じ込めるのではなくて、役を借りて心を解放する作業って、本当に「自由」で楽しいことなのです。

シナリオクラブの舞台公演について

舞台に立つ人には、「役を演じることは自由だ」という事を実感してほしいです。
また、観に来てくれたお客さんには舞台に乗った人の良し悪し関係なく、何か持って帰ってほしいと思っています。お客さんに何をもって帰ってくれるかは強制できません。
でも「何かが伝われば、何か持って帰ってくれる」と思っています。
貴重なお時間をいただいてるので、できれば「苦しかった、辛かった」は持ち帰ってほしくないかな(笑)

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