座・高円寺での公演、withコロナの時代に公演は本当に可能だったのだろうか。

新型コロナウィルスが日本に上陸してから、早くも半年以上が経っています。

この半年の間に

・緊急事態宣言

・東京オリンピック延期

・あらゆるイベントが大打撃

・ソーシャルディスタンスが標準化

と、目まぐるしく世界が変わりました。

そんな中、5月25日に緊急事態宣言が解除され、我々も7月、舞台公演をすることができました。

しかしそれまではどのように稽古を行ってきたのか。

果たして舞台は成功したのか。

今日は実録レポートです。

1.世界中のコロナ禍の中で

稽古をしようにも、新型コロナの危険性があるため集まることはできない。緊急事態宣言で移動も制約されている。

どうやって稽古をしようか?本当に公演ができるのか?

スタートはここから。

そのとき、世界では新型コロナのせいで、「イベントなんかやっている場合じゃない」「感染者の抑え込みを!!」

といった雰囲気に。

真っ先にダメージを受けるのはイベント業界や演劇業界。

そして、10月になっても影響を受け続けていたままだ。

 

我々は、3月、徐々に増えつつあるコロナに対して対策を練り、コロナ渦中で一体どうやったら稽古ができるのか。そもそも公演ができるのかと考えに考えました。

2.公演場所との偶然のめぐり逢い

当初の予定では、6月に公演予定だったのですが、5月の終わりに緊急事態宣言が解除されたばかり。

まだまだ世の中がピリピリしてました。

無観客で公演を行うことも考えていたのですが、そもそも予定していた劇場が閉鎖されたままで公演ができない。

いやあ、本当にどうしよう・・・。手詰まりだ・・・。

とはいえ、公演自体をなんとか形にしたい。と必死で探していました。

 

いくつもの劇場が使用中止になっていてあきらめムード真っただ中。

そんな空気でもあきらめず、「まあダメ元で、いつもは取れないところでも気分転換で見てみようか」と開くと

「・・・・あれ?」

(;゚д゚) ・・・

(つд⊂)ゴシゴシゴシ
_, ._
(;゚ Д゚) …!?

「三日間空いている・・・」

その劇場の名前は、座・高円寺

普段は絶対に取れない抜群の人気を誇る劇場じゃん!!

それを見た後、考えるよりも先に行動でした。

手が勝手に電話をかけ、口が勝手にしゃべり。

「この三日間、お借りできませんか」

と。

おそらくあの時の僕はヤフオクの落札バトルよりも素早く体が動いたと思う。

3.どうやって稽古してたか?

一方で、劇場探しと同時に知恵を巡らせたのが稽古。

コロナが猛威を振るう前から。

 

稽古どーすんだ問題

 

シナリオクラブは普通の劇団と違い、全員が社会人です。

となってくると一か月みっちり稽古なんてのは基本無理で、普段は週1回、時間を合わせて稽古をやるスタイル。

このコロナ禍が去るのを待っていられないし、待っていたら稽古期間が無くなってしまう。

かといって、対面でやるとコロナのリスクが高まってしまう。

そもそもコロナ禍が終わるかどうかも未知数だし保証もない。

ならば今から何とかして稽古をやるしかない!!

ここからどうやって稽古をするかの試行錯誤でした。

その結果

オンライン稽古をやろう

稽古を始めたのが3月。当時の方法は電話かLINE電話。

ちなみに当時zoomは「みんなzoomってのを使っているらしいぞ!!」的な認識でした。

迷ってる時間は無い。もうやるしかない。

しかしオンライン稽古、口で言うのは簡単でも、やるのは簡単にはいかなかった。

・wifi環境がない会員さん

・スマホを持っていない会員さん

・通信機器が脆弱な会員さん

色々な問題を抱える人が多く、そう簡単にはいかない。

それでも一人一人、オンラインレッスンができるように環境を構築していきました。

時々電話に切り替えたり、LINE通話を利用したり。

この辺りのzoom導入はこの辺りにも書いてあります。

70歳でスマホ未経験の方にzoom導入したら、最終的に感動の巨編になった話。

何とか全員のオンラインレッスン環境を構築完了!!

しかし環境が整ったとしても、うまくレッスンが行くとは限りません。

・タイムアウトしてしまっていなくなる会員さん

・うっかりドライブモードに入ってしまう会員さん

・ギガ数を使い切ってしまう会員さん

・途中でフリーズしてしまう会員さん

この辺りのトラブルは日常茶飯事です。

何かが起こるとスタッフが電話に飛んでいき、確認する。

当時、ようやくリモートワークにzoomが使えるんじゃないかという時代なのに、zoomを導入して多人数稽古をしたのって、もしかしてうちくらいじゃなかろうかと思うレベルでした。

だからこそ、マニュアルも少なく毎日がトラブルの連続。

僕も含めて全員がzoomやオンライン稽古について初心者。一つ一つのトラブルをじっくりと解決しながら、

本当にこれで公演が完成するのだろうかと不安になりながら、稽古を続行する皆さん。

だが、誰も公演を中止しようなんてことは微塵も思っていなかった。

 


できる限りベストを尽くし、せっかく映像があるんだから、ただ声を出すための稽古ではなく、映像を存分に生かし、俳優各々の声の出し方と動き、演出を交えた立ち振る舞いをオンラインで指導していきます。

 

口で言うのは簡単だけど、それを演出しながら教えていた清家さんの苦労はめちゃくちゃ計り知れない。

一人一人違う部屋の広さ、カメラの距離、声の聞こえやすさ、通信のタイムラグを交えながら一つ一つすり合わせていく作業。

本当に考えることは山のようにあったと思う。

全てが手探りの中でやりつつ、進めていったのだ。

3.たった6回の立ち稽古

緊急事態宣言が5月のおわりに解除され、漸くみんなで会って稽古ができるようになりました。

もちろん、今までと違って感染者対策を万全にするため、対応策として

・全参加者にマスクを配布

・全来場者の手洗い

・全参加者およびスタッフを含めたシナリオクラブに来る方全員の体温と健康チェック

・稽古中は換気しまくり。

・時間帯で区切り、素早く人を入れ替え

できることの最善を考えなければいけない。時間がない。判断を鈍らせて決断を先延ばしにすれば稽古の時間は失われていくことになる。

スタッフ間で徹底的な対応策を取りながら、とにかく実行できるベストを尽くさなければいけない。

連日深夜まで対応を練りながら、本当に切羽詰まってました。

週に一回の稽古しかできないため、どれだけ切り詰めていても、公演までにできる稽古の数はなんと6回。

たった6回の稽古で、演出を体に叩き込み、セリフを覚え、相手との呼吸を合わせなければいけない。

さらに全員が「演劇のプロではない」という条件付きな上、今回は沼田まほかる先生の初の舞台化。皆さんのプレッシャーはとんでもないものに。

加えて、全員がマスク着用というのも結構なハンデです。何故なら

 

本番直前までマスクで顔が見えないですよ。

表情が読めない分、演出の意図を分かってくれているかどうか、芝居の表情までできているかどうか見分けるのがなかなか難しい。

 

僕も稽古に裏方として参加したのですが、ソーシャルディスタンスや換気をきちんと守りながら稽古って、本当に気を使う。

定期的な空気の入れ替えや、来れない方のための通信環境の整備。

裏方だけでなく、稽古をする皆さんだって不安。

 

100%に近いレベルの対応策をしていても、心の不安が100%拭えるわけではない。

家族や本人の心配があって、泣く泣く降板する方。

移動ができないため、遠距離からリモートの稽古になる方。

「コロナさえなければ・・・・」

という声が何度もよぎる。

ただ、どれだけ大変でも、結果として感染者どころか、体調不良者を一人も出さずに無事稽古ができたのは事実。

我々の対策は間違っていなかったと思っている。

 

4.いよいよ劇場入りだけど、いつもとは違う空気

7月になり、立ち稽古を終えて劇場入り。

しかし公演前までやはり色々なことを考えていました。

「無観客でやるか?」

「ソーシャルディスタンスはどうする?」

「劇場の対応はどうする?」

などなど

 

会場側の打ち合わせによると

 

まず座席は前後左右一席開けでお願いします。

当時の満席のイメージ図

会場入りするスタッフは、全員健康チェックをお願いします。

舞台公演のリハーサルは全員マスクでお願いします。

観客の皆さんは、名前と連絡先を聞き、リスト化をお願いします。

一回公演が終わるごとに、客席も含め、全消毒をお願いします。

注意喚起用の文面もお願いします。

我々劇場スタッフも一緒にがんばっていくので、なんとかこれを乗り越えていきましょう。

※本当はめちゃくちゃ優しかったです。

 

やることが多すぎる・・・。

どうしましょうか

 

舞台監督さんと相談しながら一つ一つやっていくしかないね。

 

感染者を絶対に出さない、そして感染者を入れないというのを守らなければいけませんね・・。

アルコールなども準備しなきゃ。

 

座・高円寺さん側も初めてのことがたくさん。

劇場側も劇団側も一致団結でコロナ対策をしていきます。

注意書きも今までの公演とは全く違う。

劇場側も初の事態だから本当に試行錯誤でした。

 

そして会場入り

いよいよ会場入り。ここまでで立ち稽古は6回程度しかできてない。

ほぼぶっつけみたいな状態なのに、果たして公演ができるかどうか。

さらにそれだけではなく、この厳粛なコロナ禍で考えることはいつも以上にある。

幸いにして、全キャストスタッフ共に体調不良の方は一切いないものの、油断はできない。

そんな空気があるためか、楽屋の雰囲気がいつもとは違う。

以前ならば

「緊張してきたわ・・・」

「セリフが出てこなかったらどうしよう」

みたいな不安の声や、

セリフを復唱する方、立ち位置を確認する方。談笑する方など、皆さん思い思いに動いていた。

 

しかし今回は違う。

ピーンと張った緊張感と厳かな雰囲気のもと、準備だけが着々と進められていく。

 

更に今回、座・高円寺は初めて公演する劇場。

本番直前まで目まぐるしく変わる演出プラン。

ストップモーションが入ったり、セリフのきっかけが変わったり、幕裏の待機のタイミングが違ったり。

 

今回、舞台監督さん含め、裏方の皆さんは蜷川幸雄氏のもとでずっとやってきたエース級の方々。

 

目まぐるしく変わっていくオーダーをものともせず準備を進めていく。

 

一方で我々はついていくのに精いっぱい。

 

俳優さんたちが混乱しないようにスムーズな情報伝達をこころがける。

実際のゲネでは、やることが多すぎて、半ばパニック。

場当たりとゲネ、終わった後は文字通り泥のように眠りに落ちるくらい疲れ果ててたなぁと。

・過去の経験があったこその集大成の公演。

おそらく、舞台の常識では

・一か月くらい連続でみっちり稽古する

・稽古は常に本番環境のように行う。

・本番の劇場で何度も稽古する。

・全員がプロ俳優

・常に全員揃って稽古する。

というのが当たり前であり、それが普通です。

ですが、僕たちは10年前の初公演から舞台を続けてきて、どれ一つとしてやってこなかった。というかできなかった。

・一か月連続で稽古なんてとてもできない

・本番環境とは全く違う状況での稽古

・劇場での稽古は、多くてたった二回

・全員がプロの俳優ではない

・全員揃うのは劇場入りまで1~2回。劇場入りしても2回しか合わせられない。

 

本当にこれで公演できるの?みたいなところから10年間続けてきて、気づいたら、それでも立派で自慢できる公演ができるようになっていた。

舞台の常識は、結局のところ、一つもできなくても、素晴らしい公演には関係なかったんだとおもう。

 

 

今回、誰もが想定していなかった新型コロナという災禍。

 

今までの生活様式が全く当てはまらなくなりました。

しかし、10年間続けてきた舞台の常識を満たさない稽古。

これがこの土壇場にて、真価を発揮しました。

全員zoomでの稽古

本番とは全く違った環境

お互いに会わずに稽古をする。

そのどれもが、今までやってきたことの延長線でした。

 

たった6回、しかも週一程度しかできなかった立ち稽古を経て、舞台で空気を合わせていく俳優の皆さん。

直前で変わる演出やタイミング。

裏方で変わる手順やナビゲート。走り回るスタッフ。

そうして公演は出来上がりました。

普通に考えたら、プロでもないのにそんな週一で、6回の稽古で、残りは全部zoomで公演なんてできるわけがない。

しかし今までの経験値があったからこそ、ここまでできた。

ソーシャルディスタンスを守り、来場者、スタッフ、俳優の誰一人として感染者、体調不良者を出さずにできた集大成がこの公演だったのです。

後日談

公演を終えた後、観劇された沼田まほかるさんの関係者の方が感想をくださいました。

 

「観るまで、いわゆるカルチャークラブの発表程度かな?と思っていました。でも全然違って、本格的な見ごたえがある舞台で本当にびっくりしました!! 演出もとっても良かったのですが、何より出演者の皆さんが本当にすごかった。」

「実は社内でも、舞台化するのは難しい作品だよね・・どうするんだろう?とみんな言っていました。まさかこんな素晴らしい舞台になるなんて、本当に感激しました。沼田さんにぜひ観てもらいたい!!」

 

みんなでこの話を聞いた時、心の中でガッツポーズしました!!

我々の行ったことは間違いではなかった。これはwithコロナの時代の新しい方法の一つなんだって。

 

この先、まだまだwithコロナ時代は続いていくと思います。

 

下手すれば何年もこの時代に付き合っていかなければいけない。

どうやって公演をするか悩むところも山のようにあると思います。

舞台そのものをやめてしまうところだってたくさんある。

 

それでも、僕らは舞台を公演することができた。

 

あきらめなければ、活路は開かれる。

 

この新時代、辛く大変なことはいっぱいあるけども、

 

それでもあきらめなければ活路は開かれるのだろうと思っています。

 

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