チーフメンター 清家 栄一

清家 栄一

10代の頃に蜷川幸雄氏と出会い、蜷川氏のもとで40年以上舞台に立ち続けた俳優。
蜷川幸雄氏作品最多出演を誇る。

出演歴 

1976 年蜷川幸雄演出の「オイディプス王」で初舞台。
以 来、「王女メディア」「近松心中物語」「天保十二年のシェイクスピア」「ハムレット」「リア王」「ロミオとジュリエット」「オセロー」等の彩の国シェイ クスピアシリーズ、「ファウストの悲劇」「血の婚礼」「祈りと怪物」「元禄港歌」など、100作品以上に出演。

俳優について

俳優人生で最もうれしかったこと

蜷川カンパニーでは、自分たちで小作品を作って蜷川さんに見てもらうのですが、ある時、僕は死をテーマにした10分くらいの芝居を作ったんです。芝居を見た蜷川さんに「傑出してよかった。脳髄を演劇に侵されているやつと、そうじゃないやつの違いがはっきり出たな」と、とんでもない表現で褒められました。
また、清水邦夫氏がその芝居を見て、「新人類を象徴する芝居だ」と絶賛してくれた。
さらに、「血の婚礼」という作品に、僕専用の役(トランシーバーで架空の誰かと会話し続ける青年)を作ってくれたんです。
この出来事が俳優をやってきて一番うれしかった。今でも鮮明に覚えています。

蜷川幸雄氏の存在とは

僕は父と会話が少なかったので、蜷川さんが僕にとっての父親なんです。俳優に対してあんなに愛情を持って接してくれた演出家はいないと思います。

昔、蜷川さんは「群集劇が得意な演出家」と言われていたのですが、「俺はお前たちのことを群衆だと思ったことはない!みんな一人一人にドラマがあるんだ!!たまたまロミオとジュリエットにスポットライトが当たっただけだ!!自分の役を貶めるな!なんで自分自身を群衆と考えるんだ!」と怒っていました。
俳優に対するとてつもない愛を感じたし、王から民衆まですべての人間に人生があるという演劇を描こうとした、とてもダイナミックな世界観の人だったんだなと、つくづく思っています。

俳優を目指したきっかけ

高校生の時、同級生がNHKのオーディションを受けたという話を聞いたんです。
その時なぜか、「自分は、何をのほほんとしてんだ! やらねば!」という衝動に駆られて、すぐさまオーディションに申し込みました。
でも合格のハガキが来ないんで、「落ちたんだろうな・・」ってがっかり。
するとある日、電話がかかってきた。「合格してるのでお待ちしているのですが・・・」と。
合格通知のハガキが、玄関の下駄箱の下に落ちていて、気づかなかったんです。
その時、親が電話にでたので応募がバレてしまいました。幸い、反対されずに俳優を目指すことができましたけどね。

蜷川氏との出会い

初めて会ったのが18歳くらいで、オディプス王の舞台に参加した時に、蜷川さんと出会いました。
当時の僕は、篠ひろ子さんと共演したりして、色んな仕事をもらい始めていた時期でした。
しかし蜷川さんと出会って、色々な話を聞いているうちに、「蜷川さんともっと一緒に仕事がしたい!!」と、所属していたところを飛び出して蜷川さんについていくことにしました。そこから40年以上の付き合いかな。

40年間で辛かったこと

僕にとって俳優は日常であり、当たり前だと思っているので、俳優を辞めようなんて思った事は一度もありません。
でも、自分が役を上手く表現できないときは苦しかった。そんな時は蜷川さんが僕に何度も何度もダメだししたり。
でも、いつまでもめげているわけにはいかない。どうやるか悩んでいるうちに、何かコツのようなものをつかんで、なんとか壁を破ろうとする。すると蜷川さんが 「お!!つかんだか!?」 とか言ってくれるので、僕は心の中でガッツポーズを決めてました。
どこかで、蜷川さんに認めてもらうために俳優をやっていたのかもしれません。父に褒められたい息子のように。

 

今まで多かった役どころ

若いころはトランシーバーの青年のように、人とコミュニケーションができない、ちょっと癖がある若者役が多かったです。
最近は、「え、この役!?」ってくらいコミカルなものが回ってくることもあります。「ヴェニスの商人」のランスロット役などです。
その時の相手役が石井愃一さんだったんですが、二人が稽古しているときに蜷川さんが「ちょっと見てやろうか」と本気で指導するつもりで来てくれた。
僕たちは、「どんなダメ出しくらうのかな・・・」と思いながらも、全力で稽古していたんですが、何も言われなかったんです。蜷川さんも、「大丈夫だ」と思ったんでしょう。
そこからかはわからないけど、コミカルな役がいつの間にか好きになってました。
笑いってストレートですからね。人を笑わせる芝居は好きです。

演劇の「上手さ」とは何か

演劇に大事なのは、「技術」と「心情」のバランスだと思っています。
「技術」は何を言っているか、はっきり分かるように、声が通るようにするものです。
ですが、「技術」だけだと心には残らない、うまいなあと思うけど感動はしない。
ハートが震えないのです。

「心情」は、本当に役を生きていることが必要です。
目に見えないけど、役を生きている、例えば、自分が役の悲しい気持ちに入り込み、心から涙を流すと、お客さんがそれを受け止めて一緒に悲しい気持ちになる。
ただ、「心情」だけだと、声が小さくなったり、詰まったり、何を言ってるか分からなくなる。
「技術」と「心情」を使ってどうバランスをとって演じるか、俳優の永遠の課題です。

 

シナリオクラブについて

チーフメンターとして

シナリオクラブでは、会員さんと共演する俳優をメンターと呼びますが、その中でもチーフメンターが責任者の立場です。
他のメンターのとりまとめ役で、教室全体を見ることが求められます。教室内の様々な対応や、細かい調整、会員さんへのフォローなどを行います。

シナリオクラブは100人を超える会員さんが在籍していて、なるべく名前やどんな方かがわかるように心がけています。
皆さん、それぞれ楽しく通ってくれていますが、中には迷ったり、悩んでいる方もいます。
他のメンターでは対応が難しいかな、と感じたときは、相談にのったりするのもチーフメンターの仕事です。
ここに来てくれた方、出会えた方に楽しんでもらえるのが一番。でもそれ以上に、僕自身が一緒に楽しんで、勉強させてもらっています。

シナリオクラブの大舞台

大舞台では、題材の選出やテーマ、配役、演出をしています。練習スケジュールも含めて、総合的なプロデュースも行います。
参加する会員さんを知らないと、配役や題材を選ぶのが難しくなります。参加する方が楽しめるようなものを作るために、普段から会員の皆さんと向き合うことが必要です。
また、会員さんには、自分の役とお芝居のことだけを考えて、舞台の面白さを存分に楽しんでもらいたい。舞台の楽しい部分を思いっきり味わってほしいです。

大舞台に参加される会員さんへ

舞台に立つとき、「技術」が無くても大丈夫です。
自分を捨てて役になるのではなく、数十年生きてきたあなた自身が、「このシチュエーションに立ったらどうするか。」と考えてみてください。
自分の人生を歩んできたあなたがセリフを言うから、観ている人の心を揺さぶることができるのです。
本物の舞台に立ち、スポットライトを浴びて、共演者と世界を作ってください。セリフにいろんな想いを込めて表現して、それが観客に伝わって感じてもらったら。舞台というものはこんなに面白いのか!”と、絶対に思うはずです!!

大舞台を観に来てくださる方へ

僕は、演劇は、その時代の鏡だと思っています。僕は、ある俳優が三島由紀夫の「弱法師」の俊徳役を演じたのを見て、腹にズシンと、強烈なものを感じました。
なので、大公演を観た後、面白かったね、だけではなく、なにか心がざわついて、・・・ちょっと今日は歩いて帰ろうか、なんて気持ちになるメッセージ性があるものを届けられたらいいなあと思っています。
最近では年々、大公演のレベルが上がっていて、来場の方に見ごたえがあったと言われています。
次回も良いものをお届けできればと思っています。

シナリオクラブに興味がある方へ

色々な台本を読んで、役になることで、「ありえたかもしれない、もう一人の自分に出会うことができる」のがこのシナリオクラブの面白さです。
もし今のあなたが「この状況になったらどうするか」ということを楽しんでほしい。

レッスンするとき、僕は自分自身も楽しめるように、本気で役に入りきって台本を読みます。棒読みでも、声が小さくても、うまく表現できなくても大丈夫です。その時の感情を出してくれれば、僕が引っ張っていきます。

自分を捨てるのではなく、今までの人生の生き様が、「武器」なのです。
技術が無くても、気持ちだけで役になれるから、逆に感動する芝居ができるのです。
ぜひ全力で演劇を楽しんでいってください。

 

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