【池袋演劇祭ドキュメントその1】無名の劇団が池袋演劇祭に出場し、満員御礼になるまで。

これは、趣味で演劇をやっていた人々が、池袋演劇祭に出場し、客席を満席にするまでのドキュメント。

すべての始まりはだいたい1年ほど前。

「池袋演劇祭に出場しよう!!」の鶴の一声で参加が決定。

プロの劇団がうようよいるところに参加して、ぶっちゃけ大丈夫?的な空気が流れる中、僕はめちゃくちゃワクワクしてたのを覚えている。

 

ご存じない方に説明すると、「池袋演劇祭」は、豊島区が主催する演劇の大会で東京でおそらく知名度が一番高い演劇祭。

誰でも参加できるけど、30年以上の歴史と知名度があるから、有名劇団や、プロも参加するめちゃ激戦な大会。

たとえるならドラゴンボールの天下一武道会。

 

そんなつわものたちが集まる場所に、乗り込む参加することになったのだ。

ただし、参加するのにしても、課題はいっぱいだった。

・有料公演でお客様が来てくれるのだろうか?

・お客様を満足させれるのかな?

・公演の宣伝をどうする?

今までシナリオクラブは「発表会」と題して、様々な公演を行ってきた。しかし、あくまでも無料公演。有料となれば手厳しい評価もいっぱい。

我々のようなプロの俳優が一人もいない、無名の劇団が無邪気に参加して、プロのレベルの高さにショックを受けたりしたら。・・・大丈夫なのだろうか。

海原雄山ばりのお客さんがやってきて、「この舞台を公演したのはだれだぁーーー!!」とか言われたらどうしよう。

不安は尽きなかった。

 

当初は、

「善は急げだし。チケットは早いほうが予約しやすいよね~」

みたいな、ものすごい安直な考えでチケット予約は2か月以上前で予約できるようにした。でも、なかなかそんなに簡単には、席が埋まらない!! ひそかに泣いてました。

(実はチケット予約は、一か月前に開始するのが普通らしい)

そんな、いろんなことを知らない僕らは、様々な勘違いに悩まされてました。

 

風向きが変わったのが一か月前で、だんだんと予約が入っていき、昼の公演が続々と売り切れに。

その後も、出演者の皆様が売ってくれたり、シナリオクラブの会員さんが買ってくれたりと、気づけば、夜の公演もガンガン売れて、蓋を開けてみると、まさかの全席満席でした。

当日券で来られた方も多く、「なるべく帰さない方向で頑張ろう!!」と

客席内をパズルのように配置換えして増席してました。

受付では

「大丈夫ですよ。入れますよ。」と、ニッコリしながら言ってたけど、

ぶっちゃけ裏側では

「あと3名!!席が足りません!!」

「何名いける!?」

「演出で通路使うけど、大丈夫!?」

「ここ、椅子OK???」

「避難経路ある!?」

とスタッフ総出で脳みそを全力で回しながら席を確保してました。

ついでに、スタッフのリスト記入漏れとかで、本来はぴったり満席のはずなのに、どうみても席が足りない??回もあって、

「あれれ~?おかしいぞ~?」と僕の心の中にコナン君がいました。現実逃避、万歳。

とはいえ、「空席だらけで、お客さんがいません!!」という状況より1000倍マシで、席が足りないとか、めちゃくちゃ嬉しい悲鳴なのは間違いなし。

全公演、背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、来てくれたお客さんを一人も帰さずに全員入れることができたのは良かった。

舞台監督の白石さん、演出の清家さん、めちゃくちゃ助言してくれて、空きスペース作ってくれて、助かりました。

おかげで、なんとかなりました!!

この裏で冷や汗かきながら席を作ってました。

舞台の評価はどうだったのか。

しかーし、どんな作品でも「全席満席になって、よかったよかった!!」では済まない。

もちろん集客はとても重要なんですが、観終わった後に「つまらなかった」と言われればそれまで。せっかく興味をもって観に来てくれた方が離れてしまいます。

というわけで正直めちゃくちゃドキドキしてました。

しかも、なんとお忍びで著名人の方が観に来てくれてましたから、なおさらプレッシャーがでかい。

参加する側ではないのに、すっごい緊張してた・・。

この感想を聞いたときは、裏で密かにガッツポーズしてた。

僕らのシナリオクラブは、プロの俳優が一人もいなくて、全員が趣味で演劇をやっている、演劇を習い事にしている集団だけど、

みっちりとした稽古ができなくて、月に1回ずつ、そして本番前に週に1回ずつの稽古だったけど、それでも妥協せず突き詰めていった結果、こんなにすごい方々から良い評価をもらえる舞台に仕上がったんだと。

だって、我々の公演って「所詮、趣味で集まった人たちの無料のアマチュア公演でしょう?」といわれると、何も言い返せなかった。

こんなに自信を持っていい作品です!といえるのに、「所詮、無料のアマチュア」レッテルを貼られるのがちょっと辛いなぁと。

その中で、こんな評価をいただけたのが本当にうれしい。シナリオクラブの舞台って、胸を張っていいものなんだって、つくづく思いました。

また一般の方からも、めちゃくちゃ分厚いアンケートの束をいただきました。

これって、全公演の束ではなく、1公演のアンケート束なんです。数えているときに、その多さにびっくりしたよ。

実は毎回、終演後にお客さんがなかなか出てこない。中を見てみると「あの結末のあと、どうなるんでしょうか?」「あの表現の裏の意味は?」とキャストと話すコアなファンの方や、ぽろぽろ涙ぐんでいる方(劇場出る前にメイク直しが必要だったり)、余韻に浸る方などなど。

そんな方々が、みんなアンケートをしっかり書いていってくださっていて、感謝しかない・・・!!

公演内容とお客さんの入り具合の両方で見ても、大盛況といってよいのでは!?

さて、そんなシナリオクラブですが、最初からこんなのだったわけではなかったのです。

今日はその始まりまでを語っていきます。(ここから先は、自画自賛といわれるかもしれないけど、とにかく伝えたくて書きます!!)

 

第一章 「清家栄一」の演出家としての実力

舞台の良さは俳優の力もあるが、演出家の技量も大きい。

知らない方のために、演出家の仕事は

劇を作品的成功に導いていくことである。そのために俳優の演技や、舞台に必要なさまざまな要素をコーディネートし、演出していく。

戯曲の解釈、コンセプトや作品の芸術的方向性、表現手法などについて具体的なヴィジョンを持ち、なおかつ最終的な決定権を握っている。

演出家wikiより

そして、今のシナリオクラブの演出を務めるのはチーフメンター清家栄一さん。

もともと俳優で、演出家ではない清家さんに、無理を言って演出をお願いしたのが始まり。

演出家として求められる技量は、俳優とは全く違う。一切経験がない清家さんも、最初は手探りでの演出だったと思う。

シナリオクラブの「ちょっと演出お願いしますね♪」という要望は、だいぶひどいと思うけど、清家さんもよく引き受けてくれたと思う。

しかも作品選びから演出まで任せっぱなし。清家さんが作品を選んで、台本を校正し、面白くできるかなと、考えて考えたものを「いやあ、これよりもっと別の作品がいいですね」と却下する我々スタッフ。鬼である。

その結果、和も洋もジャンルも関係なしに、とにかくたくさんの演出をお願いした。

「こんなに全員の気を使いながらする演出家って、僕も見たことないなぁ」といいつつ、どんどん演出をしていく清家さん。

時には、A公演を演出しながら、全く違う題材のB公演も別の舞台として演出する。しかも「両方とも、お客さんが観て面白いものに仕上げてほしい」といった、ほとんど無茶ぶりのような注文を出すこともざらにあった。もはやスパルタである。

しかし、シナリオクラブでの公演の回数が増えるとともに、清家さんの演出のクオリティが上がっていった。

我々から清家さんに頼む演出の数が大小含めると10年間で結構な数になった。

故、蜷川幸雄氏のすぐそばで演出を見続けていた清家さん。その清家さんが我々のお願い(という名のスパルタ)で、劇場の大小問わず、様々な演出経験を短期間で積んでいった結果、知らず知らずのうちに演出の技量は、どんどん磨かれていった。

「あれ、最近の清家さんが演出する舞台、めちゃくちゃ面白くない?」

いつしかそう思うようになった。

第二章 うちのレベルってどうなの?

今まで、僕はシナリオクラブ以外の舞台を観ていなかった。ぶっちゃけブログ担当になるまで、舞台を観に行く習慣もほぼなかった。

なので、「清家さんの演出する舞台ってめちゃ面白いけど、一般の舞台公演は、これを軽々凌駕する神クラスや怪物がゴロゴロいるのか・・・。舞台って恐ろしい世界や・・・。」とか思ってました。

そして、僕が色々な舞台公演を見るようになってから気づいた。

「うわっ…、清家さんの演出レベル、凄すぎなの…?」

うわっ私の年収、低すぎ!みたいなテンションで、マジに驚いた。

ただの身内びいきなのかもしれないが、趣味で見に行く公演よりも、シナリオクラブで清家さんが演出した公演のほうが面白ことが多かったのだ。

つまり、清家さんの演出センスとレベルが、気づかないうちにものすごく高くなっていたということである。

おそらく、次々と演出プランをこなしていきながら「全部、面白くしてくださいね♪」という我々の要望(無茶ぶり)に答え続けた結果、

・どうやったらお客さんに観て楽しんでもらえるかの「顧客目線」

・どう演出したらよいかの「演出経験値」

・蜷川さんをずっと横で見ていた時に培われた「センス」

この三つがうまいこと融合して、独自の演出ができるようになったのだ。

「これはもう、もしかして・・・・みんなのレベルが格段に上がったのでは・・・?」

頭にそうよぎった。

第二章 進化し続けるシナリオクラブの会員さん達

進化したのは清家さんだけではなかった。

舞台に参加する会員の皆さんも、まるで磁石に引き寄せられるように、清家さんの演出に応えられるくらいに技量があがっていったのだ。

もともとシナリオクラブは、「趣味で演劇を楽しむ教室」

その中で会員さんたちは、何度も何度も舞台公演を経験してきた。

 

よく、メンターさんが「舞台は、自分、相手、お客さんの三角形の関係が重要」と説明していたが、舞台公演を経験するということは、その三角形の関係を肌で感じる場でもある。

最初は自分と共演者の芝居のやりとりだけだったかもしれない。

けれども舞台に立つことで、泣く観客、笑う観客、そういう反応を肌で浴びてきた館員さんは、いつしか自分が楽しみながら、お客さんを楽しませるということを学んでいった。

それはアマチュアからプロへと変わる、意識の変化でもあった。

おそらく、自分たちでどうすればお客さんに伝わるかを考える習慣がつき、清家さんも演出するうえで、そこにアドバイスしていく。

その結果として、どんどん芝居のレベルが上がっていった。

また、教えるときに決して技術に頼りきらず、ありのままの自分の気持ちで表現することを大事にしていったのも大きい。

決して画一的ではなく、ひとりひとりが持ち味を生かすお芝居。その公演を見ながら

「シナリオクラブのお芝居、心にすごく刺さるし、同じ芝居だけど全然違って面白いんだ・・・。」

気づいたらそう思うようになっていった。

第三章 いよいよ参加。

シナリオクラブにはプロの演出家もプロの俳優もいなかった。あるのは、「お芝居が楽しい」と思う心だけ。

そして、楽しいと思う心が、演出家の才能を開花させ、俳優のレベルをぐんぐん引き上げた。

公演回数を重ねるうちに、舞台のクオリティがどんどん高くなっていった。

しかし、無料公演でやっているうちは、上記のように「所詮、アマチュア」レッテルを貼られても言い返せなかった。

我々には、プロのような実績がない。

舞台だから映像にも残しづらい。残しても伝わりづらい。

でも、クオリティが高くて、人に感動を与える芝居だから、みんなにもっと知ってほしい。

そう思ったとき、「試しに池袋演劇祭に出てみようか」という声があがったのだ。

池袋演劇祭に出ることで、「何か」が変わるかもしれない。

多くの人に見てもらえるかもしれない。

でも、プロの世界に打ちのめされるかもしれない。

期待と不安。その第一歩として、9月14日~9月16日 劇場シアターグリーン BaseTHEATERを押さえた。

上演する作品は「海と日傘」

第40回岸田國士戯曲賞の名作。

演じるのは、プロの俳優じゃないけど、誰よりも芝居が大好きな人々。演出は、清家栄一。

最高のアマチュア。すべての始まりはここからだった。

続く。

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