【9/3追記あり】20年間で、演劇の市場は盛り上がった?縮小した? 詳しく調べてみました。

スタッフの竹森裕哉です。

今から40年以上前、ベルサイユのばら、ガラスの仮面が流行っていた時代は、演劇部がけっこう盛り上がっていたそうです。昔のムーブメントや熱気に比べて、現在の演劇の市場はどうなっているのでしょうか。文化庁のデータなどから、劇団四季や2.5次元ミュージカルを除いた現在の演劇の市場を調べてみました。

<9月3日追記>

文化庁の資料は劇団協議会に属している団体のデータなので、2.5次元ミュージカル、劇団四季などを除いた演劇市場です

劇団協議会正会員団体について

2.5次元ミュージカルについてはこちら

2.5次元ミュージカルの盛り上がりを調べたら、緻密に考えられてブランディングしていた話

<目次>

1.演劇の主要な顧客層の年齢、性別について
2.劇団の公演回数、団体数減少と理由
その1:演劇以外のコンテンツと競合
・ネット回線の高速化と普及率が様々なコンテンツを生み出した。
・日本人の自由時間はほとんど変化なし
その2:集客にネットが有効活用できていない。
・ネットで公演情報を知るのは16%
・チケットのネット予約は3位
・HPは力を入れるが、SNS運用がうまくいってない
3.まとめ、演劇市場の未来

1.演劇の主要な顧客層の年齢、性別について

2017年の日本芸術文化振興会のデータから探してみました。

 

  

引用:2017年独立行政法人日本芸術文化振興会”鑑賞者アンケート集計結果”

観客層の年代は20代~50代。半数は女性で、劇団の公演の平均観劇数は1~3回ほど。内訳は

・会社員 24%

・主婦 10%

・学生 9%

来場した理由についてのアンケートでは

「自分の好きな劇団の公演だから来た」25%

「出演者が好きだから」18%

つまり、半数近くが劇団か出演者のファンであり、劇団や出演者を応援するために劇場に通っています。

ファンの努力によって支えられているのが今の演劇市場ですね。

市場は20年間で拡大しているのか、縮小しているのか、データを探してみました。

 

2.劇団の公演回数、団体数減少と理由

引用:文化庁”文化芸術関連データ集より 

やや古いデータですが、2004年に団体数、上演回数ともにピークを迎え、そこから7年で団体数が23団体、上演回数が876回減少しています。何故、劇団数、上演数が減少したのか、原因を探ってみました。

原因その1:演劇以外のコンテンツと競合

・ネット回線の高速化と普及が様々なコンテンツを生み出した。

演劇市場は2005年から徐々に衰退していっています。データを見てみると、下記のように映像コンテンツが2005年から急激に伸び始めています。

他にも有料音楽の売り上げ実績、オンラインゲームの市場の拡大、電子書籍の急激な増加といったネットに関連する市場が大きく拡大しています。ここまで急激なネットコンテンツの拡大の理由として、インターネット回線の発達と、国民のみんながインターネットを手軽に使えるようになったことではないかと思います。

引用:総務省

上記のデータ見ると、2001年からインターネットの利用者は増え続けていますが、この時の回線の主流はADSLであり、速度が遅くネット上のコンテンツが少なかった時代です。

いままでマイナーだった光回線ですが、2004年からYahooBB、NTT、auなどの大手からの参入が始まり、2005年には一般家庭に急速に普及しました。その結果が、誰もが高速インターネット回線を使える時代の到来です。

引用:総務省

通信技術の発達とともに、インターネット上ではコンテンツが増えていきました。2007年にYoutubeの日本語版、ニコニコ動画、Ustreamといった、動画配信が開始され、ネットコンテンツはどんどん充実していきます。高速回線の普及とコンテンツの充実で、インターネットはより身近になりました。その結果、今までネットを敬遠していた世代もネットを使うようになったのです。

2005年にはネット利用状況が40代で90%超え、50代が75%、60代でも32%がネットを使うようになりました。

この年代は、演劇の観劇層です。

・日本人の自由時間はほとんど変化なし

一方で、日本人の余暇活動に使う時間は15年間でほとんど変わっていません。

文化庁のデータから、自由に使える時間は15年間でわずか30分増えただけです。でもネットを中心に面白いものがどんどん増えていく。同じ時間を使うなら、より手軽なもの、時間がかからないものへと流れていってしまったのではないかと思います。

デジタルコンテンツの充実で、わざわざ外に出て何か探さなくても家の中で映像、音楽などを楽しめたのです。

 

ちょうどその頃、外出が必要な映画も2005年(平成17年)に入場者数を落としています。映画はその後、映画館をシネマコンプレックス方式(1施設に複数のスクリーンがある映画館)で増やし、公開本数の増加など、5年かけてようやく集客数を取り戻していってます。

 

家にいても十分楽しめるデジタルコンテンツの時代において、わざわざ外に出てチケットを買って観劇をするという事が、演劇のコアなファン以外に受け入れられず、演劇市場の緩やかな縮小のきっかけになったのだと思います。

その2:劇団側が集客にネットの有効活用ができていない。

・ネットで公演情報を知るのは16%

日本文化振興会のデータでは、公演情報のきっかけについて51%の人が案内やチラシ、ポスターです。SNSで公演を知った人はわずか8%。HP告知とあわせても16%です。

公演情報のきっかけをネットで知った人は全体の2割以下、SNSで情報を知った人は10%にも満たないのです。

主要な観劇年代層は20~60代の女性。2005年の段階で、この世代のほとんどの人がネットを使っているはずです。にも関わらず、公演情報のきっかけはネットからではありません。

・チケットのネット予約は3位

チケット入手方法ですが、

1位 関係者から入手

2位 電話

3位 ネット

と、チケットの申し込みするときに、ネットをきちんと使っています。もしネットを使えないというのであれば、ネット予約がランクインすることはまずないと思います。今は一人一台スマホの時代、スマホから公演予約できるサイトは結構あります。ということは予約の時に少なくともPCおよびネットを使っているのです。

・HPは力を入れるが、SNS運用がうまくいってない

では公演情報のHPが無いかというと、そんなことはありません。たいていの公演情報はHPでお知らせされています。ただ検索でgoogleなどを使うときは調べるものがおおよそ決まっているので調べます。つまり、あらかじめ公演情報や公演タイトル、出演者などの情報を知らないとたどり着けないのです。知っている時点で、どこかで公演情報を目にしたか、あるいはファンであったりするため、ネットを使っての集客とは言い難いと思います。つまり、なんらかの手段で知った人がより詳しい情報を得るための後押しツールとしてHPがあるので、最初のきっかけではないのです。

一方でSNSで公演情報を知った人間は全体の10%以下、多くの劇団が検索用のHPに力を入れているが、SNSの運用がうまくいっておらず、公演情報を見てもらえてないのではないかと思います。その結果として、情報を一切持たない人へのアプローチが難しく、新たな顧客の開拓が難しいのではないかと思います。

3.まとめ、演劇市場の未来

 

演劇市場は多くのネットコンテンツと競合した結果、演劇離れが進んで市場は縮小しています。新規の観客層を呼び込もうにも、ネットを十分に活用できておらず、残ったコアなファンだけに支えられています。

この演劇市場の未来を、観劇年齢層と人口比から推測してみます。

データから観劇の年代層は、70代から上の層が他の層に比べて大きく減少しています。病気、衰えなど、身体的な理由で観劇するのが難しくなっていくのだと思われます。

我が国の人口ピラミッドを見ると、60後半から70台が大きな山となっています。

引用:総務省統計局より

今演劇を支えている60代の観劇層ですが、人口ピラミッドで大きな割合を占めています。

70代で観劇数が大きく減少しているのを考えると、あと数年経ち、60代の観劇層が70代になってしまったら、肉体的な限界から演劇離れを起こし、演劇市場の縮小が起きるのは間違いないでしょう。これから先、若い世代を取り込まなかったら、緩やかに縮小して衰退に向かっていくのではないかと思います。

ですが、きちんとSNSを活用している劇団もありますし、一度はネットにやられかけた映画業界も少しずつですが、市場は大きくなっていってます。

近代の日本では「コト消費」のニーズが高まっており、今回は触れませんでしたが、劇団四季のライオンキングは20年のロングラン、この夏から始まったCATSは12月までほぼ満席です。若い世代についても、2.5次元ミュージカルなど、観劇への下地はできていると思います。業界に吹く風は決して向かい風だけではありません。

また、演劇の手法を使ったワークショップは児童から高齢の方まで幅広い層に様々な効果を発揮しています。

「演劇を習うメリット」を調べていたら、色々な効果があった!

観客と俳優がいて初めて成り立ち、生で実演するために俳優にも高度な技術を求められる舞台の世界。シナリオクラブでは、その演劇の世界に少しでも興味を持ってくれる人を増やし、同時に盛り上げることができればと思っています。。そのため、ネットを通じて演劇について、色々な情報を発信していきたいと思います。

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