「演劇を習うメリット」を調べていたら、色々な効果があった!

スタッフの竹森裕哉です。

前回のエントリーから演劇の市場は縮小しており、一般の方にとって、今は演劇のなじみが薄くなっています。

20年間で、演劇の市場は盛り上がった?縮小した? 詳しく調べてみました。

ですが、演劇は古くから文化と共に発展してきました。

劇団協議会では演劇の要素を織り交ぜたワークショップを行うと、様々な効果が表れることを論文で発表しています。今回は演劇の秘めた効果について調べてみます。

<目次>
1.演劇ワークショップが子供たちに与える影響
・児童への高い効果
・子供たちに起こった変化
・高校のワークショップでも高い効果
2.演劇ワークショップが高齢者に与える影響
・高齢者の自己肯定感の向上
・演劇ワークショップが認知症の高齢者にも効果的
まとめ

1.演劇ワークショップが子供たちに与える影響

・児童への高い効果

演劇ワークショップの効果として、学童、児童養護施設、特別支援学校の三つの施設で行っているデータがありました。

参考:「演劇による社会的包摂プロジェクト」調査研究報告書

児童向けに演劇的な手法を取り入れた簡単な内容を、約半年にわたって、月に一度の頻度で行っていました。その結果は驚くものでした。

教職員のアンケートですが、自己肯定感、表現力、自発行動、コミュニケーション力の向上が見られました。軒並み平均の3を上回っており、明らかな変化があったということです。

また、コミュニケーションの活性化、感受性の豊かさなどが、文科系、運動系ワークショップと比べて平均の3以上の点数を取っており、高い効果が見られます。

一方で、ワークショップ以外の長期的な変化は、平均の3程度になっています。

この理由について、一つは、

望ましい平均回数については年に 3 回以上という声が得られており、その理由として「1回のみのワークショップで子どもの変化を継続することは難しい。また、子どもが意欲的かつ自発的に参加するためにも、子どもが覚え ているうちに年に数回継続して行えることが望ましい。

というように、ワークショップを行う回数に関係していると思います。頻度が月に一度か二度なので、一般的な部活動よりも少ない活動で平均点数を出しているともいえます。

・子供たちに起こった変化

教職員の意見から

・普段児童館では、ルールを守ることを優先することもあり、子どもたちを叱ってし まうが、講師の方たちが子どもたちの自由さを尊重しながらまとめあげていて、 素晴らしいと思った

・ 普段引っ込み思案で静かな子が、大きな声で友達と一緒に表現を作り上げ ているのを見て感心した  子どもたちの自由な表現力に驚いた。

・こんなにたくさん身体などを使って表現 ができるとは思っていなかった。子どもたちのことをもっと信じようと思った

演劇のワークショップはスポーツや勉強と違って、一番や正解が決まっていないため、「間違い」や「否定される」ことがなくコミュニケーションを行えたのだと思います。

その結果として、「人から受け入れられる」経験から「自己肯定感」向上やコミュニケーションの向上が見られ、静かな子が活発になったり、活動的な子がルールを守るようになったりと、子供たちの新しい面が見られるようになったのです。

・高校でのワークショップでも高い効果

効果の検証は児童だけではありません。高校のワークショップですが、文学座の方が2012年(平成24年)から、年に3回、2時間程度のワークショップを行っています。

内容は主にシアターゲーム(演劇要素を取り入れたゲーム)ですが、鑑賞者と演技者と二手のチームに分かれて行っていました。

このシアターゲームのワークショップで驚くべき効果が表れます。

なんと実施した2012年(平成24年)から遅刻、問題行動、中退、休学が目に見えて下がっているのです。

 

当初の視察の中で際立っていたのは、生徒の無気力感である。あいさつもできない、教員の話を聞かない、授 業中に寝ている、携帯電話やスマートフォンをいじるなど学校生活に参加意欲のない状況であり、荒れていると いうよりは、教員と生徒のコミュニケーション、生徒と生徒のコミュニケーションが十分ではなく、自己肯定感が持てず元気のない、先が見えず夢を持てない生徒が多いということがわかった。

元々、モデルケースとなった高校は、意思疎通の難しさが問題でした。そこで、演劇のワークショップを行うことで、生徒同士で話すきっかけが生まれました。そこから、仲良くなる時に「恥ずかしい」という気持ちを捨てて色々な人と話すことができたり、孤立していた人が自分から輪に参加するようになったり、自分の意見を言えるようようなったりと、積極性が生まれました。さらに教師と生徒の間に信頼感が築かれ、相談できる関係になりました。演劇ワークショップを通じてお互いに共感する心が生まれ、信頼しあい、認め合えるようになったのです。

2.演劇ワークショップが高齢者に与える影響

・高齢者の自己肯定感の向上

児童や高校生だけでなく、高齢者に対する演劇が与える評価も非常に大きいです。高齢者施設では、児童と同じように半年間のワークショップを行っています。

結果として、実施後は肯定的な意見がかなり増えています。

特に高齢者の方は年を重ねるごとにできる ことが減る中で、自由さがありながら様々な役割を担うことにより、自己効力感、自己肯定感を高めることができ ていると示唆される。

高齢の方になると、役割を与えられる機会が少なくなり、何か行動をすれば止められてしまうこともあります。その中では自己肯定感はどんどん薄れていきます。演劇ワークショップは、否定されず、「なんでもいいよ」と投げやりにならず、役割を与えられます。その結果、自身の存在価値が認められて、自己肯定感の向上と、役割を全うできた自信から、「まだまだ自分は元気なんだ」という余裕が生まれたのではないかと思います。

また、その成功体験が自信と余裕をもたらし、上記のように演劇ワークショップ外でも変化が見られたのではないかと思います。

・演劇ワークショップが認知症の高齢者にも効果的

認知症の高齢者へのワークショップは、週1日、1時間ほど行っています。

前田氏が新聞記事、小説、戯曲や落語といった作品 の朗読を行い、その前後に関連する会話(語らい)を実施する。その内容としては戦争時の手記「英霊の言の 葉」や、落語など、高齢者の方たちの語らいにつながりやすいような内容となっている。例えば、昔ながらの恋愛の 話から、「ご自身の若いころの恋愛はどうでしたかねぇ」といった声掛けや、戦争時の思い出から「どうですか」といっ た語りにつながり、「私の頃はねぇ」という話し合いにつながっていることが見受けられた。

MMSEという認知症のテストですが、左が何もしない、右が演劇を行ったものです。3か月行った結果、演劇を行った右側の組が9割上昇しています!なにがすごいかというと、認知症は単純な物忘れではなく、暴力や問題行動などの周辺症状が表れます。演劇を使った情動療法を行うことにより、怒る、悲しむ、喜ぶという情動の流れを整えるのですが、

なんとこの演劇情動療法での情動満足度が高く、周辺症状への緩和にも役立っています。それだけではありません。情動療法を行うことで、高齢者の新たな一面に気づき、職員が接し方も変化した、というデータもあります。施設では周辺症状による問題行動で、介護職員のや他の入居者への負担が大きくなります。どう接していいか悩むことが精神的な負担にもつながります。その症状を緩和することで、介護職員の負担が軽くなり、職員側もどう接していいかの切り口が見えたということです。

まとめ

以上のことから、演劇が与える社会的効果は非常にすごいものでした。ではこのワークショップがもっとももっと大きく広がったらどうなるのか

 

例えば、これから先、65歳以上の方の認知症の医療費だけでも、約4500億もの医療費が使われています。

厚労省HP参照

すでに高齢化社会の日本ですが、人口統計比を見てみますと、介護が必要な高齢者の人口比率はさらに増え、介護の負担は増大していきます。

ですが、演劇のワークショップを行う担い手がいれば、精神面に良い効果が期待できるのも事実です。また、少子化で大学全入時代と言われている中、子供たちに少しでも実りある教育をしたい親御さんは多く居ると思います。演劇のワークショップは、そんな子供たちに自己肯定感や居場所を与えるものではないかと考えるのです。

しかし演劇ワークショップ、担い手が不足しているのも事実です

プログラム拡大・継続を見据えた周囲の関係者の巻き込みは重要であり、説明会等で徐々に支援者や担い 手を増やしていく必要がある。

先日、平田オリザ氏が豊岡市に演劇を専門的に学べる専門職大学の学長になることがニュースで取り上げられました。

演劇学ぶ初の国公立大、兵庫に 21年度開校へ基本構想案発表 学長に平田オリザさん

「観光芸術大」構想 豊岡に育て演劇人 2021年春開学目指す /兵庫

学長に作家の平田オリザ氏…兵庫・豊岡に4年制の県立専門職大学が開学へ 

平田オリザ氏が学長を務める豊岡市の「国際観光芸術専門職大学」について、できる限り調べてみた。

演劇の社会的な価値が認められてくれば、もっと多くの担い手が増え、多くの場所で影響を与えると思っています。

シナリオクラブに通う会員さんにも変化を聞いてみました。

「シナリオクラブに入る前は時々体調を崩したりしていました。でも、通いはじめてから、だんだんと体調がよくなっていったんです。ここでは、好きなことが出来て、ちがう自分に なって元気になれる。好きなことをやらせてもらえて、なんて幸せなんだろうと思うし、私はこういうところがあると知らせたいです。」

「退職したら、いつか演劇の習い事やってみたいと思ってたんです。今はもう生活の一部になって、毎週この時間っていうルーチンみたいですよ。」

「シナリオクラブに来る前は仕事一筋だったので、定年退職して”好きなことやっていいよ”って言われても何やればいいんだろうって。色々やってみたけど、打ち込めるものがなくて、そんな時にシナリオクラブにはいったんです。」

「私の中でシナリオクラブはお仕事に近い感覚かな。人間、ある程度負荷がないといけないなって思っているので。よく仕事をやめると気力がガクって落ちる人がいる中、私にはそれがないです。10年くらい医者にもかかってないですね。」

会員様の声

 

そして、私たちがシナリオクラブを始めるきっかけになったのは、まさしくこの演劇の効果!メリット!を感じたからです。

シナリオクラブの特徴

病気のせいで閉じこもりきりになりがちだったその方に、「一緒に台本を読み合わせてみませんか?」提案。
そして、色んな作品を声に出して読み、大きな声を出したり、滑舌をよくしようとしていくうちに、顔色が、少しずつ明るくなってきました。
それを目のあたりにして、演劇を使って、楽しめて元気になる教室を作りたくなったのです。

様々な可能性を秘めているのが演劇の力です。私たちシナリオクラブでは、その演劇を少しでも広めていければと思っています。これから先、演劇やそれ以外のことについても、色々な情報をお伝えできればと思っております。

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